美術作家 三橋登美栄
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笹谷晃生展(2010.5.18~30)を終えて
当画廊での笹谷晃生展は2007年10月以来3年ぶり、笹谷ファン待望の2回目になります。展示作業が始まり畳の上に作品が置かれると、茶室のような空気に変わります。この気配を受けて和室の畳を雑巾掛け、続いて洋室、玄関、洗面所を拭き掃除して、庭の落ち葉を拾い、草を抜き、水撒きが終わると清々しい空間に変わり、お茶事にお客を迎える亭主の気持ちになります。 ![]() 洋室(展示作品10点) ![]() 作品No.5630「掌中景」(銅 鉄) 作家のコメントは『私自身の身近に置くものと考え、日々の暮らしの中で机の片隅に置いて折に触れて手に取り眺めながら過ぎゆく時を楽しむことができるのではないかと想像しながら制作した作品』です。 ![]() 作品No.4609 4608 「湿度について」(銅 鉄 ガラス) ガラス板の縁はガラス切りで切った直線部と割った曲線部の違いに注目。この断面にはガラスの美しさが凝縮されています。ランの葉形の銅の部分は置かれた環境の湿度を取り込み、目には見えぬ速度で緑青色や赤橙色に輝きながら育ちます。 ![]() 作品No5507「棲息域」(銅 木) 銅蝋づけ鳥籠の中に吊るされた葉が静かに動くと、ここには居ない生き物の気配に気付きます。鳥が飛び去った後のようにも、鳥がやって来る前のようにも見えます。鳥に扉は不要。 ![]() 洋室から眺める和室(展示作品11点) ![]() 左 作品No5639「草本」(銅) 中 作品No4427「景土」(陶) 右 作品No5614「草本」(銅) 「景土」は土の景色です。遠くに富士のシルエットを眺める時と、近く山中で過ごす時の2つの景色を焼締めた陶の作品です。山頂辺りには蓬(ヨモギ)の小葉と根の凹型の刻印があり、格言「遠くのものを近く見よ、近くのものを遠く見よ」のようです。 ![]() 違い棚に作品を展示 ![]() 違い棚に生える2本の「草木」。 ![]() 作品No5610「草本」(銅) お気に入り「草木」を違い棚の中に入れて観賞。環境に溶け込みながら個性が輝きます。 ![]() 作品No5505「棲息域」(銅 ) 銅鈴のようで、かそけき音が聞こえますか? ![]() 作品No5703「四弁花」(銅 ) 板状の銅を叩いてクリスマスローズのような花弁が現れます。 ![]() 作品No5639「草本」(銅) 棒状の銅を叩いて葉の形が生まれ、生命のエネルギーを秘めた草本7点組。 ![]() 作品No5615「掌中景」(銅 鉄 陶 ) 庭の灯籠の中に「掌中景」が灯り、奥の石畳には「草本」が静かに繁っています。 ![]() 作品「草本」14点組(鉄) 石畳右に「草本」1点と左に「草本」14点組(鉄)(展示作品15点) 室内からの観る「草本」は、まるで庭に生えている木賊(トクサ)で、鉄であることを忘れます。 ![]() 作品No5515「草本」( 鉄 ) 現代人は、急速に変化し続ける現代社会の中で無理な態勢で駆け抜ける毎日が続き、時には感覚が麻痺しそうです。その忙しさの中にこそ「忙中閑あり」で、しみじみと感動する瞬間を味わえる空間を設えて頂きました。内容の深い空間と時間を本当にありがとうございました。 ※ photo by Teruo Sasatani以外の写真は三橋登美栄撮影 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 最後の締めくくりは、笹谷氏の文章「個展を終えて」です。(揺から原稿依頼) 個展を終えて 笹谷晃生 ギャラリー揺の個展は2007年に続いて2回目である。京都らしい庭を持ち、一部屋ずつの洋間と和室からなる個人の住宅に少し手を加えただけの個性的な展示空間である。ここでは玄関で靴を脱いで部屋に入り、立ったまま、あるいは畳に膝をついたり、座ったりして作品を見ることができる。 初めての個展ではこうした空間にやや戸惑いながらの展示で、必ずしも十分にこの場所の個性を活かしきれなかった思いが残っていた。そのために今回の個展の予定が決まってからは、洋間と和室で作品を鑑賞する視線の高さの違いをどう扱うのかを初めに意識した。そして展示場所も、作りつけの棚・壁面・床からなる洋間、畳・板の間(床)・白い壁を持つ和室、また庭の敷石・石灯篭の火袋など、多様な空間が考えられた。 このようなことから今回の展示は「多様であること」に特に重点をおいた。もともと自分の体験によって記憶のなかに蓄積してきた植物のイメージを造形表現するようになった頃から、植物の世界や自然にみられる多様性を意識し、作品のなかにもそれと等価な多様性を実現したい思いがあった。多様であることは、汲みつくせない豊かさや余韻を持つ世界だと考えている。具体的には作品のもつ大きさ・素材・形体と、展示場所・視線の高さとの構成に配慮しながら、作品との出会いの多様な場を用意することに力を注いだつもりである。 少しでも多くの人が、この場に居合わせることの喜びを感じてもらえる展示空間を実現できていたとしたら、心から嬉しいと思う。 スポンサーサイト
06/17 21:31 | 展覧会 |