美術作家 三橋登美栄
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ギャラリー揺 シリーズ企画「光と影」V
佐藤忠展[Read Game](2009.11.17~29)を終えて シリーズ企画「光と影」?は井田彪先生ご紹介の佐藤忠さんです。これまで東京を中心に神奈川や各地で個展やグループ展にて作品を発表されていますが、今回は関西初個展です。2008年にOAP彫刻の小径「空と風と水と」( アートコートギャラリー / 大阪)で佐藤さんの作品を拝見した時は、大きく空に浮かぶ鉄の作品で鉄錆色が印象に残りました。揺での展覧会も最初は「鉄」だと予想していましたが、想定外の素材を使っての新しい試み・新作発表です。一番重い素材・鉄から一番軽い素材・スポンジへ、ステンレスや鉄の無彩色からスポンジの鮮やかな赤に変りました。佐藤さんのイメージする京都の色「赤」のスポンジを捜し廻り、ロクロを回してカッターでスポンジを切ること約1300個は面積にして約畳一枚分です。出来上がった作品を持ち込むのではなく、現場で作業して、ここでしか作れない造形物の創造が始まりインスタレーション作品の設置へと展覧会の準備は進みました。 展示作品は 板間に7点(棚に2点、壁面に3点、展示台に1点、床に1点) 和室に2点(畳面に1点、壁面に1点) 庭に3点(庭石2カ所に2点、石灯篭に1点) 合計12点です ![]() 板間の元掘り炬燵位置の作品は、一見ステンレス板一枚に見えますが見る位置を変えると赤いスポンジが下から出てきます。 ![]() 和室の中央部畳一枚分にびっしりと赤いスポンジを敷き詰めた作品は上に反り上がり様々な物に見えます。近づくとスポンジの一つ一つが動き出しそうな生命体にも見えてきます。この2点は逆の形となり、同一直線状に位置して一対の作品です。 ![]() 広く感じる石畳には何もなく空間が広がり、庭の周囲の庭石や石灯篭の中に作品が点在して、ハンダ付けステンレスの輪に赤いスポンジがはめ込まれたものが岩に留まっています。これも生命体を感じます。ご本人から伺ったエピソードですが、横浜に帰宅されて幼稚園と小学3年生のお子様2人に庭の作品の写真を見せたところ「気持ち悪い!」と言われて「子どもの意見は正しい!」と、再度京都に向かう新幹線の中で構想を練り、展覧会初日の雨降る中で、作品修正の作業が続きました。その結果、赤いスポンジの数が少なくなり作品の印象も随分変わりました。お二人のお子様には揺の庭で実際の作品を見てもらいたかったです。2週間の展覧会も終わりに近づく頃は、庭木のドウダンツツジは佐藤さんの赤色を意識して目にも鮮やかな朱赤に紅葉し、庭の秋も深まりました。 これまでの佐藤さんは、幾何学的な形の中に有機的な動きを感じる生命感へとつながる抽象形態・ミニマルな作品を制作されていたようですが、今回はあえてイメージや概念を排除して「自分は何を作っているのかな?」「自分でもよく分からない!」とゲームをするように遊びながら創られたそうです。鑑賞者もゲームをするように「これは、何だろう?」と考えながら観ることで、ゲームが展開して、霧の中で晴れるのを待っていると風景が現れる時が来るようにゲームを謎解きするような楽しさを味わえばいいのでしょうか? 関東在住作家さんのシリーズ企画展は初めてです。 これからも時には揺に東の風を爽やかに送り込んで、京都の風向きを変えてください。 良い展覧会をありがとうございました。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 以下は、私が依頼しました佐藤忠さんの文章と写真です。 ![]() 今回の展覧会で目指したことは「日常」をいかに「非日常」に変えることができるかに尽きる。住居としての要素が見られるこのギャラリーは、これまで主張や特徴が少なく、また無機質でもあるホワイトキューブの空間で主に発表してきた私にとって、ある意味非常に厄介であり、頭を悩ませた。ホワイトキューブの空間ではおのずと作品の存在が浮き立つため、作家としてはその空間と作品の関係性を図れば良いのであるが、今回はそう簡単にはいかないことが分かった。そこでまず私が行ったことは京都の地であることや揺の空間を読みとり、紐解くところから始めた。それは作品自体を考えるのではなく、その場に合うコンセプトを導き出すことでもあった。確かにこれまでのように鉄の彫刻を室内や屋外に配すればそれなりの構成や表現ができたかもしれない。しかしそれは作品の空間移動にほかならない。ましてや景色が完成されている庭に関しては借景として作品が存在するだけになるのではないかと思われ、今回は新たな表現が必要であると感じた。 日常から非日常に変化させることを考え悩んだ末に、それはただ単に相対する関係ではなく、融合もしくは調和を保ちながらその臨界点を見つけ出すことではないかとの答えに至った。それは企画展テーマである「光と影」にも同様な関係性があるといえる。 私が思い描く理想の作家像はどんな条件下においてもコンセプトがブレることなく、自分の想いをさまざまな形で質の高い表現ができること、また柔軟な思考とイメージ力を持ち備えていること。作家は常に新たな表現を生み出し鑑賞者をいい意味で裏切らなければならない。まだまだ理想にはほど遠いが、今回の展覧会は私に声をかけてくださったギャラリー揺のオーナーご夫妻とこれまでの私の作品を知る方々にとっては「裏切り」ができたのではないだろうか。 佐藤忠 ![]() ![]() ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 佐藤さんの文章からギャラリー揺の空間についての再考・再確認を促されました。 2005年秋に、ホワイトキューブでは表現出来ない展示や内容を目指し、住居空間を生かした画廊としてオープンして以来、4年が過ぎ、見慣れた空間になった結果、展示する作家側の困難さをほとんど忘れていました。 今後もこの空間で夫と共に画廊を続けていきますが、「日々新た」な気持ちで、玄関、障子、畳、庭などを常に意識して見直し、次の展覧会への工夫に繋げたいです。 三橋登美栄 スポンサーサイト
01/02 18:10 | 展覧会 |