美術作家 三橋登美栄
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中尾美園展「紅白のハギレ」(2018.4.24~5.6)を終えて
ギャラリー揺で2回目、4年ぶりの中尾美園展です。 最近、祝日に町の中で日本国旗を掲揚している家を見かけることがあまりない。スポーツ観戦もしない私は、これまで国旗に触れた経験がながったように思う。本展では94歳で亡くなった女性の、暮らしの中にあった国旗を取材した。過去、現在、未来へと、持ち主から放たれた国旗が、人との関わりの中でどのように移り変わっていくのか。 これらは、過去の記録ではなく、現在の私たちの記録でもある。(中尾美園) ≪展示作品≫ 1 紅白のハギレ(紙本着色 桐箱) 2 久代切(紙本着色 桐箱) 3 眞智子切(紙本着色) 4 未来の余韻(木箱、旗受金具、落書き中の子どもたちの声) ![]() ![]() ![]() ![]() ………………………………………………………………………………………………………………………. 京都新聞2018年4月28日朝刊(美術欄)掲載記事 中尾美園は、京都市立芸大で保存修復を学び、修復の現場で働きながら、模写の技術を用いた絵画作品を制作する。修復に持ち込まれる古い作品に向き合ううちに、作者、所蔵者、修復、観賞した多くの人たちが長い時間の中で作品に寄せてきた気持ちに思いをはせるようになったという。保存修復は、その記憶を次代に申し送ることでもある。 中尾の作品「図譜」シリーズは、自身の身の回りのもの、失われてゆくものを模写して描き留めるシリーズ。震災後の福島で拾った木の葉や、近所の水路の漂流物。克明に姿を写すことで、その時、それを描いた中尾自身の視点や感情も作品に刻まれる。 今回は、友人の祖母がタンスの奥にしまっていた日本国旗をモチーフにした。旗は昭和の初めごろ製造され、正月や祝日に玄関に揚げるという習慣ごと、久しく忘れられていた。中尾は旗本体だけでなく、旗を支えた玄関の旗受けから、付属品の組み立て式旗ざお、金球、包装袋も全て緻密に写しとった。旗が定期的に揚げられ、のちに長年省みられなかったという記憶を、和紙に雲母を敷く古典的な技法で絵巻に仕上げた。 そして別の絵巻には、破れたり手芸の素材として切られたり、落書きされたりして「紅白のハギレ」となった国旗の姿がある。この国旗に、将来起こるかもしれない変化を描いたものだ。「場所が変わって、見る人が変わると、大切だと思っていたものも、布切れになる」と中尾。修復の仕事を通じて、経年変化だけでなく人の価値観の変化が、作品の扱われ方や形状を変えてしまうことを知る中尾が見据えた「未来の記憶」を保存する絵巻だ。 会場には、録音された子どもたちの声が小さく流れている。国旗に落書きしてもらった時の様子だ。日の丸に「太陽みたい」と星を描き込む子、丸顔のマンガキャラクターに似ているという子もいたそうだ。どの声も無邪気で明るい。この紅白の図は、将来、どこで誰から、どんな風に扱われてゆくのか。作品に付けられたタイトルは「未来の余韻」という。(揺=銀閣寺前町5月6日まで 月休)(沢田眉香子・著述業) ![]() ……………………………………………………………… 展覧会後 作家コメント 会場であるギャラリー揺は、閑静な住宅街に立地している。もともとは住居だった場所をギャラリーに改築していて、上階にはひと家族が暮らしている。庭の緑は本当に美しく、聞こえてくる子供の遊ぶ声が明るい。そんな環境に日本国旗の絵を展示した。これは高齢の女性が祝日に揚げていた国旗であり、かつて暮らしの中にあった物や習慣として存在していたことを示すものだった。 暮らしの中での習慣は、個人にとっては楽しいことも、嫌なことも、悲しいことも、ない交ぜになっていて、「良いこと」とか「悪いこと」ではないと思っている。今回、絵を前にして昔語りをされる鑑賞者が多かった。そのお話も私の中の大事な一部分となっていくと思う。お話しできてうれしかったです。ありがとうございました。(中尾美園) スポンサーサイト
05/09 22:25 | 展覧会 |