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木坂宏次朗展(2018.4.3~18)を終えて
木坂宏次朗展(2018.4.3~18)を終えて
Still Point‒ Tenebrae et Lux ‒
静止点 ‒闇は光の一部 ‒

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≪展示作品≫

○ Still Point

Still point,wheel and shadows(静止点、車輪と影)
Still Point,white wheel(静止点、車輪−白)
Still Point, a Chinese Jar(静止点、中国の壺)
Small Voice(細き声)
Small Voice,,Cerulean(細き声,セルリアンB)
Small Voice,Cerulean+Yellow(細き声、セルリアンB+黄色)
Still point,Dry the Pool(光のプール)

○ Dark Matter

Dark matter,Rainbow(ダークマター、虹)
Dark Matter,Rainbow,vol.2(ダークマター、虹vol. 2)
Dark Matter,Stars,(ダークマター、星々)

○Tenebrae et Lux

Tenebrae et Lux(闇と光)
Teneburae and Lux,vol.2(闇と光vol.2)
Tenebrae et Lux,vol.3 (闇と光vol. 3)

○Sappho

つきしろ

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Still Point‒ Tenebrae et Lux ‒
静止点 ‒闇は光の一部 ‒

タイトルのStill Point (静止点)は、英国の詩人T.S.Eliot著「Four Quartets(四つの四重奏)」の長編詩にある中心的なテーマの一つです。永遠の時間と現在の時間が重なる時を意味します。展示する作品はその詩の背景を、または原景を絵画を通して表現しようと試みたシリーズです。また、その制作の過程において「光と闇」の姿を別の認識から描いたドローイング作品を中心に新作を発表いたしまします。

○ STILL POINT

土、水、空気、火の四つの象徴を経て、Still Point (静止点)−永遠の時間と現在の時間が重なる時を、絵画的表現を通して表現する試みです。表現の異なる言葉と絵画の出発点でもある原景に触れることが作品の重要なテーマともなっています。

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作品「Still point/ STILL POINT-Wheel and shadows」(静止点、車輪と影)」
【ドローイング(木炭)】

ヘラクレイトスによる二つのエピグラフについて、ヘラクレイトス、エリオット、双方の視点を出発点とし、ドローイングの習作を繰り返しながら、モティーフとなる象徴を模索していったシリーズ初期の作品。
1 ヘラクレイトスの理法(ロゴス)は万物流転(flux)の法則に対して、エリオットは「受肉せるキリスト」「言葉」キリスト教的に捉えていること。
2 四大元素の変化の過程の二面性とエリオットの救いへの道の二面性。
ヘラクレイトスのロゴスは一見、万物流転、円環のイメージを持ちますが、一方では「昼と夜、夏と冬、戦争と平和。これらが争い、右に揺れたり左に揺れたりしながら変化し、調和を保つ」。相対するものの対立の中に調和が存在するとされている思想は、エリオットにおいては「ニンニクとサファイヤ」「薔薇の瞬間といちいの瞬間」のように異なる景色が一つの風景となって立ち上がり、異なる立場の言葉と言葉の間には、言葉にはない景色が詩の中に漂い、「時間と非時間の交差」静止点へと繋がって行きます。
車輪のモティーフは、現実の時間と永遠が交差する象徴的なイメージとして扱っています(インド仏教にある法輪、輪廻思想。キリスト教に見られる円環のイメージ。いずれも中心に神がおかれる)。
Four Quartetsの中には度々円環のイメージが登場し、またぼんやりとした春夏秋冬を背景の季節としています。そして「荒地」以降(1924年-)彼の作品の内容は母性的な静寂の世界の形成を目指す調和的思考がみられ、Four Quartets全体の構造においても始まりと終わりの同時存在(始まりが終わりに内在し、終わりに始まりが内在する。)による円環のイメージをとっています。
※「円の終点は始点にもなりうる。」ヘラクレイトス静止点の視覚的イメージ。車輪(wheel)のイメージ(縦の線は神の出現。横の線は時計の時。中心の点は回る世界の静止点。(受肉のイメージ)また、東洋哲学の車輪の視覚的イメージ。

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作品「 STILL POINT-white wheel(静止点、車輪-白)」
【ドローイングⅡ(木炭・顔料吹き付け)】

木炭によるドローイングを幾層にも重ねた後、あらかじめ、精密なシンボルとなるモティーフの立模型を幾通りか制作し、それを画面上で回転させながらその都度立体模型の上からメディウムで溶いた胡粉(牡蠣、帆立、蛤など貝殻を砕いた粉)を吹き付けて、時間の記録(時の瞬間)を紙面上に記録してゆきます。重なりゆく瞬間の記録は時の歴史を作りますが、絵画の特徴として一つの画面に残る記録の片鱗は、最初の瞬間の記録も最後の瞬間の記録も時間軸を持たず、結果ひとつの画面として存在します。そして、中心の点は絶えず動き続ける静止した点です。

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作品「Still point/ STILL POINT-a Chinese Jar(静止点、中国の壺)」
【ドローイング(木炭)】

「Burnt Norton」V「中国の壺」
現在と歴史の両方に同時に存在する「壺」をモティーフにしています。実在する清康煕(しんこうき)青花地白梅胆式瓶。17世紀ごろ(康煕時代1683-1722)エリオットの時代から、およそ200年前の作。詩作の中エリオットのイメージの中に現れた壺を想定して描いた作品です。壺の白梅は冬至梅。花言葉は「気品」。「真冬の春は独特の永遠の季節」「ゼロの夏」。冬に現れる春にちなんでいます。

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作品「SMALL VOICE(細き声)」
【ドローイング(木炭)】

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作品「SMALL VOICE, Cerulean.B (細き声、セルリアンB)」
【テンペラ/顔料単色】

“AT THE STILL POINT”シリーズの後半の作品です。
「The Dry Salvages」V206の瞬間的に訪れる静止点、また作中のテーマ「告知の祈り」、「受肉」の問題を思索する意図を持った作品です.作品のタイトル「SMALL VOICE」は、(列王記上19章12節)預言者エリヤが受けた神からの啓示「細い声-a still small voice」からのものです。単色の顔料だけを用い、細かなハッチングを繰り返し濃淡だけで表現しています。虹は旧約聖書に現れる神の意思を明喩したモティーフであり、約束の象徴として。しかし、虹そのものは描くことなく虹が現れる環境(約束と言う言葉が生まれる景色)描いたものです。モティーフの対象そのものを直接描かずにその場面の状況描写をすることによって主題のモティーフを浮かび上がらせる。エリオットの言う「客観的相関物」の手法。また、可能な限り、個人的意匠を排除し、タッチの表現にさえ足跡を残さないように努める。(非個性主義)

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作品「SMALL VOICE, Cerulean.B+Yellow (細き声、セルリアンB+黄色)」
【テンペラ/顔料単色】

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作品「“Dry The Pool”」
[インスタレーション作品]

「Burnt Norton」Ⅰ 薔薇園における心象風景。を題材にしています。涸れたコンクリートの水溜に光の水が満ち、再びもとの涸れた池に戻るまでの様。隠された体験の意味が、光の水で満ちている場面。
池の水は涸れ、コンクリートは乾いていた。「すると池は陽の光で満たされ/睡蓮が静に伸びてきた。/水面は光の芯で輝き、/彼らは僕らの後ろにいて、池に姿を映していた。」
瞬間的な静止点。「人間はあまりに深い真実には耐えられない」。
「the figure of the 10 stairs」(「Burnt Norton 」Ⅴ160行)
十字架のヨハネ著『魂の暗い夜』10の階段の象徴。
○Dark Matter
「目に見える調和より、目に見えない優れた調和がある」ヘラクレイス。
私たちは目に映るもの(知りうるもの)で世界を判断しがちですが、目に映るもの(知りうるもの)は、おそらくほんの僅かなもので、目に映らない(知らない)ものがほとんどでしょう。この作品は目に映らない(知らない)ことを制作視点の中心に置き、目に映るもの(知りうるもの)を眺めること、また、そのことで目に映らない(知らない)景色を感じうることが絵画では可能ではないかという試みでもあります。

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作品「Dark Matter,Rainbow,vol.2(ダークマター、虹vol.2)」
【ドローイングⅡ(木炭・顔料吹き付け)】

パステルによるドローイングを幾層にも重ねた画面をつくった後、シンボルとなる数枚のモティーフをステンシルの技法を用いて繰り返しメディウムで溶いた顔料を吹き付けます。

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作品「DARK MATTER, Stars」
【ドローイング(木炭)】 
ドローイングによる DARK MATTER シリーズ初期のイメージ。

○Tenebrae et Lux(闇と光)

言葉の一つひとつは、その姿を単体で証明できるものではなく、相対関係によりその姿をぼんやりと浮かび上がらせるだけかもしれません。言葉の生まれる前の背景とその原景を追い求めて行くと、その姿は匂いと手触り、音楽(音)を伴って迫ってくるものがあります。そうしてその姿は記録され、言葉になって行ったとするならば、また同時にそのことばが生まれる過程において感覚と感性の豊かさが失われ、その屍がことばとして残ったとも言えなくもありません。ウィトゲンシュタインは「語りえぬものの前での沈黙しなければならない。」と言いました。言葉のない世界。私たちがその世界を少しでも覗き見るとき、そこには、認識や判断を必要としない言葉で語る世界にはない想像もしなかった豊饒な感情の世界が溢れているような気がいたします。

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作品「Tenebrae et Lux(闇と光)」
【ドローイングⅡ(木炭・顔料吹き付け)】

古来の声明や、カトリック教徒のロザリオの祈りのように言葉を繰り返し唱えることによって覚醒し言葉の背景、または原景を浮かび上がらせる作用を絵画の中で試みた作品。

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作品「Tenebrae et Lux,vol 2(闇と光vol .2)」
【ドローイング(木炭)】

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作品「Tenebrae et Lux,vol.3(闇と光vol.3)」
【ドローイング(木炭)】

○Sappho

Sappho(サッフォー)の詩「つきしろ」によせて描いた作品です。
      つきしろ
    さえわたる月のあたりの星々は、
    そのかがやく面輪をかくす、
    つきしろのみちて、そのひかり
    地のおもてに、耽々とふりそそぐとき

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作品「つきしろ」
【テンペラ混合技法】


○技法解説
≪技法解説≫大きく次の四つの技法に分かれます。
①テンペラ混合技法
支持体は、板に布を張り、石膏を重ね塗り磨き上げた表面に墨を塗り込む。細筆0号のみを使用し幾層も重ねて色の印象を作り上げて行きます。メディウムは卵テンペラ混合技法用(卵黄味、ダンマルテレピン、サンシックドリンシードオイル、水)。画面に落ち着いた艶があり、ピュアなテンペラ技法よりも固着力が強く厚塗りが可能。数十層色を重ねて初めて下地の黒い画面より微かに色が現れる。顔料そのものの色が表出するまでには更に幾層もの重ね塗りが必要なため、長い制作日数を要します。
②テンペラ/顔料単色
板に布を張り、石膏を重ね塗り磨き上げた支持体に顔料を単色のみを細筆0号だけを使用しハッチング技法による重ね塗りと多少のスフマート技法を利用し、濃淡だけで空間をつくり上げます。メディウムは卵テンペラ(卵黄味、お酢)。混合技法のメディウムはリンシードの成分が膜をつくり、ある程度均一な画面となりますが、ピュアなテンペラメディウムは顔料そのものの発色が美しく、粒子が一様でないため画面に微妙な動きを与えます。
③ドローイング(木炭)
アルシュ極細紙使用。木炭の先を鋭く削り、ハッチング技法を繰り返します。またハッチングした表面を布で幾度も返し画面に刷り込んで奥行きのある重層な画面をつくります。
④ドローイングⅡ(木炭・顔料吹き付け)
あらかじめ精密なシンボルとなるモティーフの立体模型を複数制作し、それらをドローイングを済ませた画面上で動かしながら、メディウム(卵テンペラ/膠)で溶いた胡粉顔料を吹き付け、時間の経過(瞬間の記録)を一つの画面に記録します。

P4110033.jpg 木坂宏次朗氏

禅の言葉で「億劫須臾(おっこうしゅゆ)」という言葉があります。億劫は宇宙的なほど限りなく長い時間。須臾はほんの寸刻を意味します。億劫須臾はおそらく審議は両義性にあるということでしょう。
 鼓の打ち手は、音を出す前に声を発します。音が出るまで、その声と打ち手のわずかな時間の間を「こみ」と言います。彼らは「こみをとる」と言い、そのわずかな間に祈りを込めます。その祈りは瞬きの間の祈りではなく、月日をかけたひとときの祈りであり、その祈りが音(形)となります。能の舞台では、どんな音を出すかということよりも、どのような祈りを持ち、育み、その祈りを「こめる」のかという姿勢に芸術の命をおいています。
 このシリーズは、T.S.Eliot著『Four Quartets(四つの四重奏)』の長編詩に含まれる様々なテーマを背景に土、水、空気、火の四つの象徴を経てStill Point(永遠の時間と現在の時が重なる時)を表現しようとする試みです。
 絵画表現は最も原始的な表現のひとつです。五感を通した立体的な感情が二次元の世界に解き放たれた時、鑑賞する私たちは作品を通して作者の創作の時間を遡ります。そして、作品の出発点と終着点を同時に(ひとときに)体感することになります。そこには作者と同じく時間の概念は生じず、ひとときの作品との対峙となります。しかし、その「鑑賞の旅路」においても結局は作品に向かい合った時、人は自らの体験と直感をもって作品の世界を知り、自分の姿を作品に映し出すこととなります。そのため、このシリーズの目的でもある静止点を持つ作品が、鑑賞する姿を曇らすことなく映し出す澄み渡った鏡となって存在すれば、作品の中にある意義が、作者の見た世界のみにとどまらず再び幾世代の人々の体験を含み蘇ってくるように思われるのです。
(文責・木坂宏次朗 | 撮影・平田尚加、三橋登美栄)
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京都新聞2018年4月7日朝刊(美術欄・ギャラリー)掲載記事
T・Sエリオットの長編詩「四つの四重奏」に登場する文言Still Point(静止点)をテーマにしたテンペラ画、木炭画、立体。強固なコンセプトに貫かれた、静けさの漂う絵画世界だ。
(小吹隆文・美術ライター)
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「もう、いつ死神が来ても良い!」と呟いた夫は、桜の花が満開の2018年3月31日に息を引きとりました。花吹雪は妻の涙。死者の誕生日4月2日、ささやかな葬儀で亡きがらとお別れします。悲しみから遠ざかるつもりが、幼き死者は残された者の心に戻ってきました。幼少期の實君との出会いは新鮮です。―そこはわたしの静止点 ―(木坂宏次朗展搬入の日 三橋登美栄)



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