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むらたちひろ展
むらたちひろ展 ― internal works / 水面にしみる舟底― (2017.5.16~28)を終えて

今展タイトルに添えた[ internal works ]は、「染める・染まる」ということが物理的な現象だけでなく、精神的な意味での現象・行為であると解釈し、〈本質的な・内在的な・体内の〉というニュアンスを含む[ internal ]という語を用いた造語です。一度手元に引き寄せたものを遠ざけていくような制作プロセスですが、「染める・染まる」という“現象”を用いることで、「確かに在るもの」としてイメージを物質に託している感覚があります。(むらたちひろ)

展覧会場 展覧会場

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今回の制作は身近な風景を撮影することからはじまりました。その画像データをインクジェット捺染によって布の片面にプリントし、プリントしていない面を表面として、そちらに部分的に水を与えると、裏面にプリントされた像が滲みながら浮かびあがります。そうして実在の景色は、滲んだり、透過したり、変容した状態でしか見ることができない図像として定着されます。
風景を写真に、写真をデータに、データを染料に、染料を浸透によって布という物質に変容させる。この複雑な工程を経て描き出した図像は、私にとって記憶の断片や、肉体を失ってもなお感じる人の存在といった、「確かに在るけれどもふれることができない存在」、あるいは身近でありながら完全には分かち合えない「他者の痛みやよろこび」と似て、少し遠い位置に属したものになります。
そうした、手が届かないはがゆさ、どうしようもなく追い求めてしまう切なさ、分からなさへの不安は、他者と接する上で生じる摩擦であり、その不合理さがいかにも人間らしく、作品に留めておきたいと思いました。(むらたちひろ)

作品 作品1400×1000

展覧会場 展覧会場

和室の文机の上に、文章を認めた紙が静かに置かれています。
『この季節になると、近所のお家にきれいな赤い薔薇が咲いていた。 小さな門に薔薇のためのアーチがかかっていて、水やりの霧に降られて驚くこともあったが、それは自動的に噴霧されていたようで、そこに家主の姿を見たことはなかった。 その薔薇が雑草群に取って代わられ、急に家が生気を失ったと思って 間もなく、すべては隣の建物と共に解体された。 そして、近所の大きなマンションに並ぶ、大きなマンションになった。 幼い頃の記憶にある薔薇の家は、もうアーチの向こうが思い出せない。きっちり角ばった石の門柱がふたつ、その上に架かる瑞々しい緑と赤。 それだけが在る。』(むらたちひろ)

むらたちひろさん むらたちひろさん

ロウケツ染や型染の応用技法により、一度染めあげた図像を水でにじませることで、日々移り変わる心象風景や、自身を取り巻く世界に対する違和感を表現した絵画作品として発表。近年は染めた布をカーテンやベッドカバー、部屋の間仕切りに仕立て、生活空間を想起させるインスタレーション作品に展開。現在は「染める・染まる」という行為・現象の精神的作用に着目している。染めて染められることの幸と不幸は常に表裏一体の関係にあるものなのかもしれないけれど、私は幸福な作用があることを信じて「染める」を行なう。(むらたちひろ)

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京都新聞2017年5月20日朝刊(美術欄)掲載記事 むらたちひろ展
布地の裏に写真を左右反転にプリントし、水でイメージをにじませた染色作品。私たちが見るのは布なのか写真なのか。水でにじんだ写真はイメージが揺らぎ、曖昧な記憶を発色させる。(平田剛志・美術評論家)
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鑑賞者は先ず、インクジェットプリントの裏側に水を置いて滲み出した濃い色の部分に目が留まり、次に滲んでいない薄い画像の部分に目が走ります。その余白のような不確かなイメージの中に自分の過去が表れて、今までの思い出と重なります。
落ち着かない風景なのにどこか懐かしい。よく知っている好きな花なのになぜか思い出せなくてもどかしい。以前住んでいた家の片隅の小さな石ころだけを断片的に覚えている。全然知らない人なのに気が合うことを知っている。知っている感情なのに初めてだと言う。などなど日々の不条理な思い出が蘇ると同時に、作品との共通点を捜し当てて納得しながら、不安感や焦燥感と共に自分史物語を創作し始めます。過去の出来事が、現在を追い越して未来に向かう面白さを味わいました。
揺でのむらたさんの新作発表を楽しませて頂きました。今後どのように展開されるか、更なる新作を期待しています。これからもどうぞご活躍ください。(三橋登美栄)


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06/06 09:42 | 展覧会
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