美術作家 三橋登美栄
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中尾美園展「山水」
小さな葉っぱ一枚から、その背後にある大きな世界へ想像が広がります。 <展示作品> 1 水辺の景 (タテ33×ヨコ22cm) 2 雨後 (24×18cm) 3 コノハノテガミ、ユラギ (232×110cm) 4 コノハノテガミ、ユラギ (232×110cm) 5 山水 (33.3×22cm) 6 キラキラ プカプカ サラサラ (162×110cm) 7 卓上の景色 (33.3×22cm) 8 コノハノテガミ、ユラギヨリ ![]() 種をまいた苗代の水口に立てる木の枝を水口花(みなくちばな)といい、栗・ツツジ・山吹・椿などを立て田の神の依代(よりしろ)とします。それは小さな一枝であっても、その背後にある大きな自然界に繋がり1本の枝の中に森が見えます。 この「山水」展では、南天を水口花と見立てています。作品「水辺の景」にも背景の庭の植物が映り込み、メインテーマはこの入口からスタート。 日本ではナンテンが「難転」―難を転じて福となすーに通じることから、縁起木として愛されてきました。戦国時代には、武士の鎧びつ[鎧を入れておくふた付きの箱]に南天の葉を収め、出陣の折りには枝を床にさし、勝利を祈りました。正月の掛け軸には水仙と南天を描いた「天仙図」が縁起物として好まれたようです。江戸時代になると、南天はますます縁起木として尊ばれるようになります。江戸の百科事典『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』には、「南天を庭に植えれば火災を避けられる。とても効き目がある(現代語訳)」という記述があります。江戸時代にはどこの家にも南天が「火災よけ」「悪魔よけ」として植えられるようになりました。こうした習俗は今も日本の各地に残っています。 ![]() 「陶器の中に一つの宇宙を見る思いで描きました。」と中尾さんから伺いました。 ![]() 昨年6月から毎月、揺の庭の落ち葉を拾い集めて、綿寒冷紗に日本画の絵具で丁寧に描きつづけること約1年間。ハンモック風の展示作品は庭からの風に心地よく揺れています。 ![]() ![]() 中央に立つ南天の背景には山河や森が広がり、下には瑞雲がたなびいています。 ![]() 京都桂川支流の漂流物を丁寧に描写。「流れて経過した時間を記録しました。全てが等しく存在しています。空缶のエメラルド色さえ美しい。」と中尾さんから伺いました。 ![]() 雫が落ちそうな南天の下には、今にも溢れそうな液体が入ったカップが置かれていて、一触即発の危機感が待ち受けています。 ![]() ![]() 陶器の落ち葉を手に取って観ると、掌の中に景色が見えます。 会期中は木々の葉が陶器作品の上に重なり、インスタレーション展示は日毎に揺の庭に溶け込んでいきます。 ![]() ![]() ヤマボウシが一番美しい季節に「記録の美しさ」が室内と庭で共鳴しました。 何気なく捨ててしまいそうな小さな落ち葉を、きれいな絵に描き残して記録することで、日頃見落としていた美しいものに気づくことを中尾さんの展覧会から教わりました。 仏画制作の仕事に携わりながら、社会活動にも積極的に参加し、多忙で充実した日々を過ごされています。 展覧会開催も多い中尾さんの今後の作品を楽しみにしています。 三橋登美栄 …………………………………………………………………………………………… 京都新聞2014年5月3日朝刊(美術欄)掲載記事 中尾美園展 川に流れ着くものや、庭で拾い集めた落ち葉などを、仏画の技法も駆使して丁寧に画面に描きこむ。ありふれて身近なモチーフを取り上げながら、時間を超えた永遠性や普遍性を獲得している。(加須屋明子・京都市立芸術大准教授) ……………………………………………………………………………………………. 最後は、中尾さんの感想文で締めくくらせていただきます。 一枚の葉と丁寧に向き合う 虫食い穴、葉のねじれ、葉脈、内側に隠れた色をも見つめる そうして描いていると、葉と私の距離が近づいてくる感覚になる 葉っぱを拾った日は暑かったか?湿気が多かったか? その葉が育った木、木が生い茂った庭、庭がある場所、その背景の大きな東山の峰々へと思いを馳せる 今回の展示では、ギャラリー揺の庭の落ち葉を一年をかけ拾い、描き、記録を行いました。さらに私が持ち帰った落ち葉は、陶器となって、庭に戻しました。 陶器は1枚200円で来場いただいた方に拾われ、169枚の葉が庭から旅立ちました。 売り上げは東日本大震災で被災された方に寄付させていただきます。 葉っぱに寄せた優しさが、それぞれの地で息づくことを願っています。 2014年 みみずいずる候 中尾 美園 スポンサーサイト
05/20 16:55 | 展覧会 |