美術作家 三橋登美栄
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abさんご 2013年2月28日
小学生の頃から漢字に弱く読書は苦手。夫に勧められた本も最後まで読破できずに積読タイプなのに、いま話題の芥川賞受賞作「abさんご」はひらがなが多くて読みやすそうだし、リバーシブルの本の装丁が気に入って黒田夏子の単行本を買ってきました。 いざ読み始めると最初は「ひらがな」を区切って、区切る個所を間違って、と戸惑って時間がかかる中、声を出して読み始めました。音読に少し抵抗があるのですが、NHKの番組「おかあさんといっしょ」の中で、野村萬斎氏が狂言の「型」を通して声を出す「音」としての日本語の魅力を伝えている方法とイメージが重なりました。漢字を知らない幼い頃に、大人達が話しているのを聞いて理解したように、自分の声を聞きながら読み進めます。そこにはリズムがあり、私に似合った速度を見つけて、特に「ひらがな」の部分を大切に読みます。多くの意味を持たないひらがな表記だからこそ、遠回しの説明は美しく、音楽や絵画のようです。 ひらがなで書き記される子供の頃の丁寧で長い文章は、私の子供の頃の思い出と重なり、「もう二度とあの頃は戻って来ない!」と誰もが思う郷愁に浸りながら、ゆっくり読みます。 『子供の頃の純真さの裏側に潜む不思議な怖さは、子供自身にはとうてい理解できるものではなく、周りの大人達に説明するすべも知らないまま、「口数が少なくおとなしい子」のイメージを表の顔に、わだかまりを心の隅に押し入れて年月が流れます。』これは私の感想です。 著者の「さかのぼってもいいですか」の言葉を借りて、今なら私の幼児体験を回想しながら話せそうですが、実際には鮮明に甦る映像の断片を挟みながら途切れ途切れの記憶を貼り合わせての昔話なので、私に都合の良いように脚色して展開するかもしれません。主人公は自由自在に悲劇を演じたり喜劇を演じたりできそうです。大人になった今、幼児の頃に比べれば観客を笑わせる技術も身に付いていますから。「自分の言葉を見つけて自分の思いを発見すること」を経験した読書でした。 「abさんご」に続く新作を楽しみにしながら、私も幼児記憶をテーマに新作に挑戦できれば嬉しいと思っています。 付録 単行本4編の中の一編「タミエの花」で、タミエが咄嗟に考えて言った「カタクリマブシ」や「テンニンゴロモ」のでたらめの美しい名前に笑い、最後の「呪文のように。シャガ、シャガ、シャガ。」に涙します。 スポンサーサイト
02/28 21:26 | 日々 |