美術作家 三橋登美栄
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友葭良一展(2010.6.1~13)を終えて
福井県を拠点に活動中の友葭良一氏は高校生時代に書家・山本廣氏から指導を受けて以来、墨の作品を創り続け、一時期はキャンバス地に油絵具で白黒の作品を制作する時もあったが、2002年頃からまた墨に戻り今の制作が続きます。現在は毎日書道展会員で、2008年「ソウル書藝ビエンナーレ」の国際現代書展では大賞を受賞するなど海外でも活躍中です。 展示作品は玄関に2点、洋間に10点、和室に4点、庭に1点で総点数17点です。 玄関 1 動的線条501 2 動的線条401 洋室 3 動的線条a 4 動的線条b 5 動的線条c 6 動的線条(シリーズ502~517) 7 動的線条402 8 動的線条403 9 動的線条404 10 動的線条518 11 動的線条(文字イ) 12 動的線条(文字ロ) 和室 13 動的線条(語らう) 14 動的線条519 15 Line・生命体 16 動的線条520 庭 17 インスタレーション ![]() 当ギャラリーに良く合う作品の展示風景 ![]() 作品「動的線条401」 先ず濃墨で線を引き、次に薄墨で背景を染めて作品は作られます。 「余白を生かす」のではなく、「空間を創る」という発想から生まれ、書でもない絵画でもない新領域の作品です。 ![]() 作品「動的線条(シリーズ502~517)」 陶板か燻し瓦を細い針金で繋いだように見え、とても中国紙に墨で書かれた平面作品とは思えない重厚さが表れています。小さい区切りの4辺中央に引かれた線が、隣接境界で様々な形に変化して繋がらないズレの面白さに心が動きます。でも制作過程は小品を1点ずつ仕上げてから16枚を組み合わせて展示しているので、作家本人の意図されたものではないと伺いました。 ![]() 作品「動的線条402 403」 背景は立体化して動き、濃い線条の切れ目に入り込みます。 ![]() 作品「動的線条404」 どこからこの形は生まれてくるのでしょう? ![]() 作品「動的線条404」のズームアップ 薄墨の背景は凹凸に見え、細かい粒子は多方向に動き出し内容の深さが迫ります。 ![]() 作品「動的線条(文字イ、ロ) ![]() 和室の展示風景を洋室から観る。 ![]() 作品「動的線条(語らう) ![]() 庭の石畳上に置かれた黒い直方体は水槽で、コーティングした作品を底に沈めたインスタレーションです。作品は水を通してよりクリアーに見え、水面には空の雲、木々の葉、覗き込む人自信の映り込みが重なることによって、周囲を取り込んだ作品に変わっていきます。黒い建築物が環境に入り込むようにも見えます。 最後の締めくくりは作家からのコメントです。 ・すべてから自由になれるのか・・・・。 ―――――自由になりたい。自由になって現実空間からイメージの世界へ飛んで行きたい。すれは現実逃避?いや・・・違う。なんだろう。――――わからない。沈黙の宇宙空間に入り込もう。そこは静寂だ。 独りっきりで佇む。微かな音が響く。私の動作が発する音に気づく。そして未知の新たな空間を追い求めている自分を見つける。 ひたすら神経を集中しよう。余事は一切すてて空っぽ――――無になる。 震える心音をたよりに手が動く。すると無意識の記憶があふれ出で、かたち(=線)となって眼の前に現れる。新たな私に遭遇する。 友葭良一 スポンサーサイト
06/19 20:13 | 展覧会 比叡山(平子谷) 2010年5月31日
「自然と語る会」 第303回「比叡山(平子谷)」に参加しました。参加者15名 ………………………………………………………………………………………… 京阪膳所駅発8:41→京阪穴太駅着8:58→平子谷→桜茶屋(昼食)→無動寺谷→無動寺道→京阪松の馬場駅着16時頃→帰路 ………………………………………………………………………………………… ![]() 京阪穴太駅から歩き始めると、道沿いにホザキマンテマ(ナデシコ科マンテマ属)が群生しています。ヨーロッパ原産の帰化植物で、春から6月の中頃にかけて花を咲かせます。牧野新日本植物図鑑によると、マンテマは弘文年間(1844~1847)に渡来した植物であり、元々は観賞用。名前は渡来したときの名称:マンテマンが省略されたものとのことです。 墓地を左手に見ながら穴太野添古墳群を通り、四谷川沿いに登ります。 ![]() 四谷川都市対策砂防ダム ![]() ウツギ(ウノハナ) ![]() タニウツギ ![]() ジャケツイバラ(蛇結茨) 日当たりの良い山野や川原に生えるマメ科の落葉蔓性植物です。枝が蔓状で、鋭い鉤爪状の棘が付いて、これで他の木や植物に這い登ります。黄色い花の花弁は5枚で、そのうち1枚に赤い筋が入っています。 ![]() コアジサイ ![]() バイカツツジ ![]() ヤマイヌワラビ(山犬蕨)? 山地、丘陵地の谷沿いなどの湿ったところに生える夏緑性の多年草で、ワラビの仲間ではなくオシダの仲間で、食べられないため「イヌ」がつけられていて、鹿も食べないそうです。 と思ったのですが、ミドリヒメワラビ? イヌヒメワラビ?かもしれません。 ![]() 大切に見守られている1株のクリンソウ ![]() フタリシズカ(二人静) 山林の比較的暗い場所に分布するセンリョウ科の植物です。 和名は、2本の花序を静御前とその亡霊の舞姿にたとえたもので、ヒトリシズカと対を成します。ただし花序は2とは限らずに、3~4つく例もあります。 ![]() ミゾホウズキ ![]() タニギキョウ 沢山の花々に目を奪われ、足を止めて観察し、ホトトギスやオオルリの鳴き声を聞きながら、長い急な階段を上がり、正午前に桜茶屋に到着して、嬉しい昼食の時間になります。 ![]() ヤブデマリ ![]() クリンソウの群生 前回に見た時よりも一面に沢山のクリンソウが美しく咲き誇っています。 手入れのお陰でしょうか? ![]() 親鸞聖人御修行舊の石碑が立つ大乗院の玄関横には、沢山のワラジが吊るされています。 千日回峰行の時に履くワラジでしょうか? 無動寺道を下る時には、お堂入り前のお坊さんの姿を拝見して、賑やかな私達もその時は静かになり、ギンリョウソウと黒色キノコを見て、奥深い信仰の山・比叡山を後にしました。
06/19 15:58 | 山歩き 笹谷晃生展(2010.5.18~30)を終えて
当画廊での笹谷晃生展は2007年10月以来3年ぶり、笹谷ファン待望の2回目になります。展示作業が始まり畳の上に作品が置かれると、茶室のような空気に変わります。この気配を受けて和室の畳を雑巾掛け、続いて洋室、玄関、洗面所を拭き掃除して、庭の落ち葉を拾い、草を抜き、水撒きが終わると清々しい空間に変わり、お茶事にお客を迎える亭主の気持ちになります。 ![]() 洋室(展示作品10点) ![]() 作品No.5630「掌中景」(銅 鉄) 作家のコメントは『私自身の身近に置くものと考え、日々の暮らしの中で机の片隅に置いて折に触れて手に取り眺めながら過ぎゆく時を楽しむことができるのではないかと想像しながら制作した作品』です。 ![]() 作品No.4609 4608 「湿度について」(銅 鉄 ガラス) ガラス板の縁はガラス切りで切った直線部と割った曲線部の違いに注目。この断面にはガラスの美しさが凝縮されています。ランの葉形の銅の部分は置かれた環境の湿度を取り込み、目には見えぬ速度で緑青色や赤橙色に輝きながら育ちます。 ![]() 作品No5507「棲息域」(銅 木) 銅蝋づけ鳥籠の中に吊るされた葉が静かに動くと、ここには居ない生き物の気配に気付きます。鳥が飛び去った後のようにも、鳥がやって来る前のようにも見えます。鳥に扉は不要。 ![]() 洋室から眺める和室(展示作品11点) ![]() 左 作品No5639「草本」(銅) 中 作品No4427「景土」(陶) 右 作品No5614「草本」(銅) 「景土」は土の景色です。遠くに富士のシルエットを眺める時と、近く山中で過ごす時の2つの景色を焼締めた陶の作品です。山頂辺りには蓬(ヨモギ)の小葉と根の凹型の刻印があり、格言「遠くのものを近く見よ、近くのものを遠く見よ」のようです。 ![]() 違い棚に作品を展示 ![]() 違い棚に生える2本の「草木」。 ![]() 作品No5610「草本」(銅) お気に入り「草木」を違い棚の中に入れて観賞。環境に溶け込みながら個性が輝きます。 ![]() 作品No5505「棲息域」(銅 ) 銅鈴のようで、かそけき音が聞こえますか? ![]() 作品No5703「四弁花」(銅 ) 板状の銅を叩いてクリスマスローズのような花弁が現れます。 ![]() 作品No5639「草本」(銅) 棒状の銅を叩いて葉の形が生まれ、生命のエネルギーを秘めた草本7点組。 ![]() 作品No5615「掌中景」(銅 鉄 陶 ) 庭の灯籠の中に「掌中景」が灯り、奥の石畳には「草本」が静かに繁っています。 ![]() 作品「草本」14点組(鉄) 石畳右に「草本」1点と左に「草本」14点組(鉄)(展示作品15点) 室内からの観る「草本」は、まるで庭に生えている木賊(トクサ)で、鉄であることを忘れます。 ![]() 作品No5515「草本」( 鉄 ) 現代人は、急速に変化し続ける現代社会の中で無理な態勢で駆け抜ける毎日が続き、時には感覚が麻痺しそうです。その忙しさの中にこそ「忙中閑あり」で、しみじみと感動する瞬間を味わえる空間を設えて頂きました。内容の深い空間と時間を本当にありがとうございました。 ※ photo by Teruo Sasatani以外の写真は三橋登美栄撮影 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 最後の締めくくりは、笹谷氏の文章「個展を終えて」です。(揺から原稿依頼) 個展を終えて 笹谷晃生 ギャラリー揺の個展は2007年に続いて2回目である。京都らしい庭を持ち、一部屋ずつの洋間と和室からなる個人の住宅に少し手を加えただけの個性的な展示空間である。ここでは玄関で靴を脱いで部屋に入り、立ったまま、あるいは畳に膝をついたり、座ったりして作品を見ることができる。 初めての個展ではこうした空間にやや戸惑いながらの展示で、必ずしも十分にこの場所の個性を活かしきれなかった思いが残っていた。そのために今回の個展の予定が決まってからは、洋間と和室で作品を鑑賞する視線の高さの違いをどう扱うのかを初めに意識した。そして展示場所も、作りつけの棚・壁面・床からなる洋間、畳・板の間(床)・白い壁を持つ和室、また庭の敷石・石灯篭の火袋など、多様な空間が考えられた。 このようなことから今回の展示は「多様であること」に特に重点をおいた。もともと自分の体験によって記憶のなかに蓄積してきた植物のイメージを造形表現するようになった頃から、植物の世界や自然にみられる多様性を意識し、作品のなかにもそれと等価な多様性を実現したい思いがあった。多様であることは、汲みつくせない豊かさや余韻を持つ世界だと考えている。具体的には作品のもつ大きさ・素材・形体と、展示場所・視線の高さとの構成に配慮しながら、作品との出会いの多様な場を用意することに力を注いだつもりである。 少しでも多くの人が、この場に居合わせることの喜びを感じてもらえる展示空間を実現できていたとしたら、心から嬉しいと思う。
06/17 21:31 | 展覧会 |