美術作家 三橋登美栄
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北浦真保展 ―まほろば― を終えて (2023.5.2~5.14)
人の生命力、生と死をテーマに作陶。龍や獅子のような架空の生き物をモチーフにすることが多い。これらの神獣は、人が疫病や天災など昔では得体の知れなかった恐怖から身を守るために創造された生き物である。死なないように、生きる為に。人々の祈りの中で生きてきたシルエットには荘厳さと禍々しい生命力が宿っている。 日々の、一瞬の大切な感情を忘れないように作品に落とし込み、焼成を繰り返すことで意識が研ぎ澄まされていく。窯から出てくる陶器は、そんな自分を俯瞰的に見ているようである。 本展覧会では、昨年から現在までの約一年間の作品を展開する。新型コロナウイルス感染症のパンデミックは約3年に渡り、現在では規制緩和が進むことで緩やかに落ち着きを見せつつある。流行当初に感じていた圧迫感や居心地の悪さから「解放」をキー ワードに色鮮やかで疼くようなイメージを目指す。理想郷を求め、その先にある喜びと新たな生命力に満ちた空間の実現を試みる(北浦真保) ≪展示作品≫ 1 逆鱗に触る 2 壺中の天 3 とようけ 4 Bless you. 5 ゆめごこち 6 薬師陶板 7 蓬莱亀 8 夢華の庭(a) (b) (c )(d) (e) (f) 9 山盛 10 カップ(4点) 11 ゴブレット(大)(6点) 12 ゴブレット(小)(1点) 13 コンポート皿(2点) 14 一休 15 露花 ![]() ![]() 作品「山盛」 ![]() 作品「とようけ」 ![]() 作品「Bless you.」 ![]() 作品「逆鱗に触る」 ![]() 作品「逆鱗に触る」の部分 ![]() ![]() 作品「壺中の天」 ![]() 作品「薬師陶板」 ![]() 作品「ゆめごこち」 ![]() 小作品(カップ、ゴブレット大、ゴブレット小、コンポート皿、一休、露花) ![]() 作品「夢華」(f) ![]() 作品「夢華」 ![]() 作品「夢華」(a,b,c,d,e) ![]() KITAURA MAHO 北浦真保さん ……………………………………………………………… 京都新聞(2023年5月6日)美術欄・ギャラリーに掲載された記事(作品写真掲載) (揺=銀閣寺道14日まで 月休)龍、キリン、バクなど架空の神獣と吉祥モチーフを、立体的に壺と組み合わせた陶作品。壺の中に閉じ込められた龍の体の一部が開口部からのぞくなど、凝った入れ子構造。抑圧からの解放や幸福への願いをユーモラスに造形。(高島慈・美術評論) ……………………………………………………………………… ≪展覧会を終えて≫ ![]() ![]() 大文字山山麓からほど近い幣廊は自然環境に恵まれて、四季折々野生の生き物がやってきます。 展覧会中も、可愛い目のトラツグミ(?)の雛が飛んできました。(5月12日撮影) ![]() 展覧会最終日、雨に濡れたヤマボウシの白い花が輝いていました。(5月14日撮影) ……………………………………………………………………… 「まほろば」とは、日本古来からある言葉で、「優れたところ。素晴らしいところ。」という意味があります。 「古事記」の中には、 「倭は国のまほろば、たたなづく青垣山 こもれる倭し 美し。」 の一節があります。展覧会中、揺は「まほろば」に設えられ、その空間に佇めたことを嬉しく思いました。ほぼ2週間、北浦さんは朝のパートタイム仕事を終えてから幣廊に出勤し、来廊者に作品の説明をされていました。今後も、制作とパートタイム仕事を両立させ、充実した日々を過ごされることでしょう。多様な可能性をお持ちの北浦さんは、これからも意欲的に制作されると思います。将来のご活躍を楽しみにしています。(ギャラリー揺 三橋登美栄) スポンサーサイト
05/19 13:12 | 展覧会 夛田憲太朗展(2023.3.28~4.2)を終えて
2016年、2020年に続き、3回目の夛田憲太朗展を開催して頂きました。 ≪展示作品≫ 1 アメリカの古い家 F30 2 灯台 P30 3 廃船1 P15 4 廃船2 P20 5 廃船3 P30 6 ウツギ F6 7 シリパ岬 F12 ![]() ![]() 作品「灯台」 ![]() 作品「廃船Ⅰ」 ![]() ![]() 作品「シリパ岬」 ![]() 作品「アメリカの古い家」 ![]() ![]() 作品「ウツギ」 ![]() ![]() 作品「廃船Ⅲ」 ![]() 作品「廃船Ⅱ」 ……………………………………………………………… 京都新聞(2023年4月1日)美術欄・ギャラリーに掲載された記事 夛田憲太朗展(揺=銀閣寺前町 2日まで) 海辺の灯台や漁船、切り立った岬などを描いた風景画。北海道で取材した景色が多く、多分に異国的な雰囲気を漂わせている。具象画であるのと同時に、自身の投影として情景を描いている趣も。(小吹隆文・美術ライター) ……………………………………………………………………… ≪展覧会を終えて・・・≫ 個展で説明をしているといつも同じ発見があります。それは、あくまで自分のために描いた作品なのに、その中に承認欲求があることです。描いた作品は押し入れにしまってしまっても構わないと思っていても、結局人に見せてしまいます。気持ちを人と共有したいという思いが隠されていることに気づかされます。ただ、そこは素直で良いと思うので、今後は自分のため、人のため、それを一つにできるような作品を追求していきたいと思います(夛田憲太朗) ……………………………………………………………………… ![]() 日中は大賑わいでしたが、夕方には観光客も少なくなり、静けさを取り戻していました。(3月27日午後5時過ぎ撮影) ……………………………………………………………………… 「日本の道100選」に選定されている哲学の道は、哲学者の西田幾多郎氏など、文人が散策したことが名前の由来。若王子橋から浄土寺橋まで続く疎水沿い、全長2kmの散策路には、約400本のソメイヨシノなどが咲き誇る桜のトンネルが有名です。今年の満開時と夛田さんの展覧会が重なり、銀閣寺界隈は花見客で大賑わいでしたが、その喧騒からほんの少し離れたギャラリー揺の空間はとても静かで、作品を落ち着いてゆっくり鑑賞して頂けます。 夛田さんは会社員として多忙な日々を過ごしながら、時間を見つけて制作に励まれています。これからも意欲的に制作されることと思います。今後の新作を楽しみにしています。(ギャラリー揺 三橋登美栄)
04/03 13:24 | 展覧会 第五回 一六一六展 (2023.3.14~19)を終えて
2016年に京都造形芸術大学(現京都芸術大学)通信教育部・陶芸コース卒業生のグループ展です。 幣ギャラリーでは4回目、9名の多彩な作品が室内と庭に展示されました。 《出品者 9名》 井星はるか 梅本泰子 梅香恵美子 落合利男 川本修 谷口和久 中木貴子 長瀬真弓 野田華子 ![]() ![]() ![]() 作品「八面一輪挿し 山土ぐい吞み」 『小さな一輪挿しです とっくりとぐい吞みでいっぱいどうぞ』(川本 修) ![]() 作品「うつろい」 『上信楽 無釉 ドライフラワー(グレビレア・ゴールド、コンパクタナチュラル)』(中木貴子) ![]() 作品「キタノ・メグミ」 『北の恵みですが食べられません』(川本 修) ![]() 左の作品「I ricordi di estate」 『団扇:備前土(電気窯) 団扇かけ:白信楽土・月白釉 夏の花街の風物詩を思い出し制作』(谷口和久) 右の作品「 I recordi di estate(Ⅱ)」 『団扇:備前土(電気窯) 団扇かけ:竹 茶屋さんの家紋入り団扇と火欅と共にデザイン』(谷口和久) ![]() 作品「Senza titolo」 『黒田村にてトレインキルンで焼成』(谷口和久) ![]() 左の作品「Un paio di coppette per Soba」『備前土(電気窯)火襷に挑戦』(谷口和久) 右の作品「Un paio di servizi da Caffe」『黒泥土・月白釉 コーヒーカップ・ソーサー・コーヒースプーン(桜の小枝の型取り)のセット』(谷口和久) ![]() 作品「貫入青鉢」 『白化粧に瑠璃釉を刷毛で施釉。釉薬に細かなヒビが入る貫入が模様になっています。焼き上がり窯から出した時は、もっとキラキラして感動しましたが、少し色が落ち着いてきました。』(長瀬真弓) ![]() 作品「花器」 『赤土 白釉 卵から空へ飛び立つ鳥のイメージ』(梅香恵美子) ![]() 『3DCADで植木鉢をデザイン、それを粘土に写し取りました。(野田華子) ![]() 作品「染付六角鉢」(井星はるか) ![]() 作品「とびらの向こう」とびらの向こうはもう一つの世界… 『磁土 下絵彩色 透明釉薬』(梅本泰子) ![]() 作品「萌し(きざし)」 はなびらが、今、オチル… 『彫り 下絵彩色 透明釉薬』(梅本泰子) ![]() 作品「70億のピース」ジクソーパズルの完成はいつ? 『磁土 下絵彩色 透明釉薬』(梅本泰子) ![]() 作品「kurukuru」(井星はるか) ![]() 作品「父と子」(川本 修) ![]() 作品「木葉」 『地元の山奥で採取した土を主体に焼いた作品です。釉薬も山で見つけた砂鉄を含んだ石を砕いて、ホタテ貝の粉末などを混ぜて作ったオリジナルです。作品は自分で見つけた原材料をベースに制作したので、思い通りに行かず難しかったのですが、若干の思い入れと愛着があります。(現在、残念ながら立ち入り禁止になっていたり、熊が出没するなど危険で行くことができません。トホホ)』(川本 修) ![]() 作品「スピンフロー」宇宙からこんなモノが飛んできたら痛いだろうナ~ 『ほとんど焼き締め』(落合利男) ![]() 作品「刻々」あまり見たこともない造形をめざします 『翼がへたらないように』(落合利男) ![]() 作品「Satoimo」 『泥漿 磁土 雑誌に掲載されていた六方剝きされた里芋、それぞれの形に合わせて剥かれた面が揃ってない形に魅了されてできた器『satoimo』。土で里芋の皮を剝くように削いて原型を作っています。』(井星はるか) ![]() ![]() 作品「キラキラ」 『沖縄の梅 透き通った水、キラキラと太陽の光を受けて、そして光は水底へフチの隙間から光を通し、影が出来るイメージを作りました。』(長瀬真弓) ![]() 展覧会場で記念撮影(最終日3月19日) 前列左から谷口さん、長瀬さん、梅本さん 後列左から川本さん、梅香さん、野田さん、中木さん、井星さん ![]() 落合さん(右側)は 記念撮影後に揺に到着。搬出中の井星さんと笑顔のツーショット。 ………………………………………………………………………………………….. 【 展覧会を終えて ① 】 多くの方々にお越しいただき有難うございました。今回で5回目となり、16名でスタートしたこのグループ展でしたが、今回は9名の出展で少し寂しい感がありましたが、出展者それぞれが個性溢れる素晴らしい出展で開催できました。来年は今年よりも出展者が一人でも増えてグループ展が開催出来ればと願っています。(谷口 和久) ………………………………………………………………………………………….. 【 展覧会を終えて ② 】 今回5回目となるグループ展、回を重ねるにつれ、それぞれの作品も進化しているように思われます。初めの頃は、展示の仕方などもよくわからず、ギャラリーの三橋さんにアドバイスを頂きながらしたのを覚えています。作品が一番活きる場所や見せ方を模索して、今回も時間をかけ、納得のいく展示が出来ました。お庭があり、和室がありほっこり和むギャラリー、来年もまた展示出来るのを楽しみにしています。(長瀬真弓) ………………………………………………………………………………………….. 【 展覧会を終えて ③ 】 卒業してから7年、その間、コロナ禍があり、ライフステージの変化があったりと、同窓生それぞれが異なったベクトルに向かっています。こうして同窓生が作品を持ち寄って集うと、ベクトルが違うゆえの刺激をもらえます。きらきら輝く作品、渋い作品、繊細な作品、端正な作品、遊び心のある作品、自分に正直な作品。数々の作品を目にして、また、来訪者の方の視点からのコメントにより、たくさんの気づきをいただきました。企画成功に向けて尽力してくれた仲間、お忙しい中ご来訪いただいた先生方、ご来訪者の皆様、そしていつも素敵なギャラリーをご提供いただける三橋さんに改めて感謝します。 ちょっとだけお褒めの言葉をいただけたことで、自信につながり、次の作品を作る意欲につながります。 きっと、来年は3Dプリントの実演といった変化球ではなく、魅せる作品を展示できるかな。そのためには、妄想だけで済ますのではなく今日から手を動かそう、と誓って今日も3D CADに向かいます。(野田華子) ![]() 実演中の3Dプリンタ ![]() 3Dプリンタによって作られた立体 ※一六一六展の動画(野田華子さん制作)も合わせてご覧ください。 第五回一六一六陶展 …………………………………………………………………………………… 【 展覧会を終えて ④ 】 1年ぶり、一六一六展の方々に再会できてとても嬉しかったです。参加者のお一人、野田さんが重い3Dプリンタをご持参してくださって、展覧会場で実演。普段は目にする機会の無いこの機器は、断面形状を積層して立体的なものを作ることができます。思い描いた平面のアイディアが立体になる3Dの技術に感動しました。素材は生分解性プラスチック(PLA)なので、環境に優しいです。今後は、さらに職人の手仕事をデジタル化するなど、3Dプリンタは目覚ましく進化し、多方面に需要が高まっていくことを実感しました。来年は、みなさんの作品がどのように変化、進化するのか楽しみにしています。(揺 三橋登美栄)
03/22 12:23 | 展覧会 グループ展 空華 KUGHE (2022.11.1~13) を終えて
12:00~18:00(最終日17:00) 7(月)休廊 今井康雄 竹内淳子 中尾美園 三橋登美栄 「空華(くうげ)」とは空中に咲く花のことで存在するはずのないものを指すのだそうです。本来は、病んだ目で空中を見るとあるはずのないものが見えてしまうものだ、という意味であり、様々な悩みや迷い不安や悲しみ、苦しみも全て実体のないものにすぎないのではないかということだそうです。 また、禅の世界では、実体のないものへの囚われをなくすことだそうで、道元禅師著の正法眼蔵「空華」の巻で『ありとあらゆるものが真実であり、空として成立しているのであり、そしてこれを理解したと思ってはならない』と説かれておられます。 4人の作家が各者各様、「空華」という言葉を与えられて難解な禅問答を繰り返しながら「空」に迷い、「華」を感じながら制作いたしました。それぞれの「空華」を感じながらご高覧頂けましたら幸いに思います。(空華KUGHEのフライヤーに掲載) ![]() ギャラリー揺 入口 ![]() ![]() 今井康雄 壁面左から作品「Anemone」「Chrysanthemum」 ![]() 今井康雄 左から作品「HelleboreⅠ」「HelleboreⅡ」「HelleboreⅢ」「HelleboreⅣ」 ![]() 竹内淳子 作品「白のドルマ」 ![]() 中尾美園 作品「Mother Code 2」 ![]() 今井康雄 作品「Still Life (Flower Vase) 」 ![]() 三橋登美栄 手前左から作品「雲影3」「雲影1」 ![]() ![]() ![]() 竹内淳子 作品「花影」 ![]() 竹内淳子 作品「白い花」 ![]() 竹内淳子 作品「散華」 ![]() 今井康雄 左から作品「Rose (Tropical Sherbet) 」「Tulip (Angelique) 」 ![]() 中尾美園 作品「宇宙人 模写(部分)」 ![]() 中尾美園 作品「Mother Code 1」 ![]() 今井康雄 左から作品「Aquilegia」「A Tulip (Angelique) 」 ![]() 三橋登美栄 作品「雲影2」 ![]() 竹内淳子 作品「蛟(みづち)」 ![]() 今井康雄 左から作品「Anemone」「Chrysanthemum」 ![]() 左から中尾美園 作品「土づくり」2022 今井康雄 作品「Rose (Tropical Sherbet) 」「Tulip (Angelique) 」 ![]() 中尾美園 作品「土づくり」2022 ![]() 京都新聞2022年11月5日(土) くらし欄 に掲載された記事 ![]() 左から竹内淳子さん、中尾美園さん、三橋登美栄 …………………………… 「空華」展を終えて ……………………………. 突然のグループ展のお誘いに戸惑いはあったものの、ギャラリー揺の美しい空間で、テーマを決めたり、ミーティングをしたりと、特別な時間を味わえた。 特に今井氏が提供してくれたテーマ「空華」という禅の言葉には心惹かれた。深い意味は理解できていないが、移ろいゆく人の想いが華だとしたら、それは咲いたかと思うと、はらりと散ってしまう。 絵かきはその華を絵にするんじゃないかと、グループ展が終わって想いは深まっている。偶然のように集まった4人の作家が不思議な調和を描けたのは、「揺」という美しい空間を守ってきた三橋ご夫婦の深い愛の為せる技なのかもしれない。(竹内淳子) …………………………………………………………… 今回の出品作品は娘と二人で作ったもので、展覧会後は家に飾っている。手を動かしながら、二人で色んな話をした。飾ってある絵をみる度に、共有した時間や記憶が心に内化され、いつかその欠片が浮びあがり、別の何かつながっていくのかと想像している。(中尾美園) …………………………………………………………… 一緒に同じものを見聞きしていても、人それぞれに見えているもの、感じていることが違います。それぞれが違う空間をそれぞれが創っています。自分の世界に見えているものは、自分が自分の世界を創造しているもので、他者の世界に見えているものは、その人がその人の世界を創造しています。「空華」が見え隠れする今回のグループ展は、四名それぞれの摩訶不思議な創造空間でした。この展示は2週間で終了しましたが、これからも日々の制作は続きます。それぞれの新作を楽しみにしています。 自分の世界を創造することができる「今」の時間と空間と「全て」に感謝しています。(揺 三橋登美栄) …………………………………………………………… ![]() …………………………… 「空華」展を終えて ……………………………. まず始めに、今回は位置合わせの段階から展示中、そして搬出にいたるまで、終始、私事で、ギャラリー揺の皆様、三橋さん、中尾さん、竹内さん、そしてご来場頂いた方々に大変ご迷惑をおかけしましたこと深くお詫びさせていただきます。そして、それにもかかわらず、終始ご理解を頂き、寛大に接していた頂き、無事に会を終えられましたこと心より感謝いたします。ありがとうございました。 今回の4人展は各出品者の作風が全く違い、展示前からいったいどんな展覧会になるのかワクワクしていました。いざ、搬入となり展示作業が始まっても、お互いマイペースで、それぞれの展示場所も自然と決まり、思ったよりもすんなりと展示作業が終わりました。 「空華」、という捉えどころのないテーマを掲げての展覧会でしたが、4人の捉え方や、制作方法、技法が全く違っているためそれぞれの個性や持ち味ははっきりと際立っていたのですが、そうかと言ってお互い喧嘩したり打ち消しあったりということもなく、それぞれの作品がそれぞれのところに、まるで、自然に草花が自分の生育に適したところにそれぞれ根を下ろして生育していくような感じに、ごく当たり前のようにそこに息づいていたのがとても印象深く、不思議な心持がしました。植栽と庭一面に生した苔の緑が美しい日本庭園から差し込む柔らかな光がそれぞれの個性を融合してくれていたのかも知れません。余談ですが、庭の苔の上にとても小さな冬蕨を数株発見し、三橋さんに尋ねましたら、もともと植えてあったものではないとのことで、余程このお庭が気に入って花が選んでここに根づいたのだなと思うと、なんだかほほえましい気持ちになりました。 そのお庭の敷石の上に設置した私の作品は、青花という露草の一種の花びらからとった染料を刷毛で塗っては乾かして、を繰り返して作った深い青灰色の紙の上に、一つはアンジェリケというチューリップの素描を、そしてもう一つはトロピカル・シャーベットという薔薇の素描を白黒で透明のフィルムに移したものを置き、ガラス板で挟んだだけのものでした。私の当初の思惑としては、耐光性の極めて低い青花の青灰色が日光に晒されて、デッサンの線の重なりのないところは漂白されて行き、展覧会の最後のほうにガラスから取り出しフィルムを取り除くとそこには、花の画像がポジで浮かび上がっているはずでした。しかし、奇しくも、初日、午後遅くから雨が激しく降り出し、紙の表面に施した青花が流れだすという事態が発生しました。私はすでに帰宅していたので、心配した三橋さんや、竹内さんからご連絡いただき、どうしましょう、ということでしたが、どうぞそのままにしておいてください、というお返事をさせていただきました。竹内さんが期間中、随時、作品を撮影しては、流れ出した青花がまるで煙のように渦巻いている画像を送ってくださいました。日に日に姿を変えていく作品を見て最後どのような結末を迎えるのだろうと、ワクワクしながら居りました。最終日前日に在廊する予定でしたので、その時にガラスから取り出すつもりでいましたが、その日は、急な事情で会場に行くことが出来なくなり結局、それから11日後に搬出で画廊に伺うまで、そのままになってしまっていました。いざ、ガラスを剥がすときはいったいどんな画像がそこに残されているのかと、ドキドキしながらも、濡れている紙を破らないようにそっと取り出すと、セピア色の斑の染みが広がり、微かではあるけれども植物の画像がそこに定着されていました。注意深く梱包して自分の部屋で乾かすと僅かながら花の画像がはっきりとして浮かび上がってきました。お天道様に温められ、雨に打たれて、成り行き任せに出来上がったこの作品は、いったい私が制作したものと言ってもいいものかどうかと思うほどに、儚げで、繊細で、美しい。 空華、というものがどのようなものかわからないまま、また、わかりようもないまま取り組み、展示して、会を終えて、最後の最後に、そのような形で、まるで、空からの返答のように私の手元に残ったこれら二枚の紙の上の花の画像は、私に問いかけているような気がします。いったい私たち人間は、この世の事象を、何をもって美しいといい、何をもってそうでない、というのだろうかと。(今井康雄) ![]() 秋深まる展覧会最終日(11月13日)のドウダンツツジの紅葉
11/30 22:00 | 展覧会 北陸工芸の祭典(最終日) 2022.10.23
![]() …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………….. JR膳所駅06:28発→京都駅06:39着(乗換)特急サンダーバード1号06:59発→福井駅08:29着(乗換)08:41発→加賀温泉駅09:18着→出展作家・井上唯さんの車で那谷寺→作品鑑賞と那谷寺散策→カフェレストランHOGAでランチ12:00~13:00→井上さんの車で粟津駅→福井駅(乗換)特急サンダーバード24号14:08発→武生駅14:20着→タクシーで大滝神社→作品鑑賞と境内散策→大滝神社タクシー16:15発→武生市街→旧市街地を散策→うるしやで夕食→武生駅特急サンダーバード44号19:40発→京都駅20:54着(乗換)21:08発→膳所駅21:20着→帰宅 …………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………….. 山友2人をお誘いして石川県小松市までお出かけ。京都駅から特急サンダーバードに乗車すると、約2時間半後には那谷寺に到着します。 ![]() 那谷寺山門 那谷寺は717年泰澄神融禅師により開創。白山の神を信仰し、洞窟の中に千手観音を祭っています。洞窟は母親の胎内とみて古い時代より「胎内くぐり」の聖地です。新たに生まれ変わり、罪が清められると信じられました。平安時代花山法皇により岩屋寺より那谷寺と改名されました。中世には一向一揆等の戦乱で、伽藍が焼失、江戸時代、三代藩主前田利常公が荒廃を嘆き、再興されました。現在は7棟の国重要文化財と、名勝指定園があります。 ![]() 金堂華王殿 南北朝の戦火で焼失しましたが、平成2(1990)年に再建、京仏師・松久宋琳師作の十一面千手観音菩薩をお祀りしています。 ![]() 作品「痕跡」鵜飼康平 『漆は、古くから椀や箱など天然の接着剤や塗料として用いられてきた。鵜飼は、大学で漆を学び、漆を塗る・研ぐ行為の繰り返しから、偶発的に生まれる形を拾いあげ、作品として発表してきた。今回出品する作品は、那谷寺の境内で偶然出会った倒木を切り出し、過去最大規模のスケールの大きな作品を手掛ける。自然の摂理によって倒れ、参道を塞ぐ危険物として除去される運命の倒木に、新たな命を宿すことに向きあった作品である。』(公式WEBサイト情報より) ![]() 作品「Daisy」入沢 拓 『入沢は、大学院で木工を学んだ後、独自に編み出された楔(くさび)止めの技法によって、細く切り出された木材を連結したインスタレーションを手がける。楔による連結が、組み立てや解体を容易にし、空間に対して柔軟な展開を行っている。楔止めの技法を更新し、作品に即興性と軽快さを与え、場所ごとに変容と拡張をするのが入沢の魅力だ。今回の作品は、那谷寺の書院にて、空間を自由に行き来する有機的な形態に取り組む。』(公式WEBサイト情報より) ![]() 三尊石・琉美園 岩面が3つに裂けた姿が、阿弥陀三尊のご来迎に似ていることから名付けられました。 ![]() 前田利常が造庭奉公の別部ト斉に作らせた庫裏庭園で、細い溝の水の流れが美しいです。 ![]() 雨上がり、木漏れ日の中で苔が輝いています。境内の樹々の佇まいに1300年の歴史を感じます。 ![]() 作品「garden」新里明士 『新里は、「光器(こうき)」と呼ぶ代表作品が国内外の注目を集める新進気鋭の陶芸家である。ろくろで成形した白磁の生地に穴を開け、穴の部分に透明の釉薬をかけて焼成することで、文様が浮かび上がる「蛍手(ほたるで)」と呼ばれる技法を独自に発展させている。近年は、作品を展示台や展示空間から解放する「まる」のシリーズを新たに手がけ、作品と場所との関係性へと意識を向かわせている。』(公式WEBサイト情報より) ![]() 奇岩遊仙境に窟が開口する様は観音浄土浮陀落山を思わせ、心の奥深くの「自然智」を呼び起こす景観です。 ![]() 奇岩に掘られた石の階段 ![]() 作品「山と、人と、信仰と」井上 唯 『井上は、土地の自然や風土と、そこで育まれてきた人間の営みに関心を寄せ、土地の素材や、編む、結ぶ、縫うといった原初的な手法を用いて、目に見えない繋がりや光景をつくりだすインスタレーション作品を各地で発表している。出品作品は、昔からこの地域だけでなく広く遠方からも信仰を集めてきた“白山”の存在をテーマに、「みくまりのかみ(水分神)」という山と一体化した水への信仰にも着目。分水嶺から始まり、山肌をつくり、地中や海へと繋がっていく水の流れを、地元の糸や繊維によって表したスケールの大きな作品である。』(公式WEBサイト情報より) ![]() ![]() ![]() 作品「山と、人と、信仰と」井上 唯 ![]() 大悲閣(本殿) ![]() ![]() ![]() 三重塔(国重要文化財) 寛永19(1642)年、前田利常の建立、三層とも扇垂木の手法で各層ごとに組み立て、大日如来を安置しています。 ![]() ![]() マユミ ウメノキゴケ ![]() 4人一緒にカフェレストランHOGAでランチタイム 先ずは、美味しい加賀棒茶でスタート ![]() ![]() きのこのマリネ ごぼうのポタージュ ![]() メインディッシュは鮭と蓮根のミンチコロッケの塩麴タルタルソース添え 日曜日で祭典最終日のせいか、HOGAは満員御礼でした。 お味、ボリューム共に満足です。井上さんにJR粟津駅まで送って頂きました。 ![]() 大滝神社に500円定額タクシーで到着 『大瀧神社・岡太神社は、深い山に囲まれた越前和紙の工房が軒を連ねる福井県越前市に位置します。大瀧神社は、養老3年(719年)に泰澄が創設したと伝えられており、岡太神社には日本で唯一の紙の神様、川上御前が祀られています。山の頂にある上宮(奥の院)とそのふもとに建つ下宮があり、下宮の本殿は両神社の共有となっていることから、2つの神社の名前が併記されています。本展は、下宮の境内及び、周辺の杉林の中で展開します。』(公式WEBサイト情報より) ![]() 作者:橋本雅也 『橋本の創作活動の原点は、2000年にインドを旅した経験にさかのぼる。河原でひろった木片に手を加えることで、内包していたものが表出してくる現象に興味を抱いたことにはじまる。代表作の鹿の角や骨を素材に、草花をモチーフとした作品は、国内外で注目を集めている。近年は展示する場所で採取した土や木などの素材、自然環境に手を加え、生命の諸相に触れる作品を多く残している。』(公式WEBサイト情報より) ![]() 作品「高松から越前 皮トンビ作者」鴻池朋子 『絵画、彫刻、映像、アニメーション、物語など様々なメディアを用いて、一貫して芸術の根源的な問い直しを続けている。近年は、旅の途中で出会う人や言葉、自然環境や動植物など、出会いのなかから生まれる制作手法を試みている。出品作品の《高松から越前 皮トンビ》は、牛革を漉いた際にでる裏革を縫い合わせてできている。雨水をうけ、日の光をうけ、常に外部に晒される躯体から、素材とものづくりに対する問いや、この地で存在することの根源的な意味の問いが投げかけられる。』(公式WEBサイト情報より) ![]() 拝殿・本殿 ![]() ![]() シロバナフジバカマ ママコノシリヌグイ ![]() 作品展示場所の手前で、靴から半足(あしなか)草履に履き替えて、鈴付きの熊除け杖を持って、展覧会スタッフから「写真撮影禁止、熊が出たら、、、蛇が出たら、、、蜂が飛んで来たら、、、」と沢山の注意事項を伺ってから出発します。 ![]() ![]() 半足草履とは足の裏の半分ほどの草履で、鎌倉時代より足を踏ん張って作業をする農民や船乗り、さらには飛脚などに重宝されていたそうです。足裏に傾斜をかける事で踵に自重がかかるようにします。足指と踵を地につけて履くことで、土踏まずや足指の機能が回復するだけでなく、「全身の筋肉のこわばりが解け、身体のレイアウトが元に戻る」そうです。裸足が心地いい季節に試しても良いですね。 ![]() ここが入り口で一人ずつスタートします。約10分登ったところに設置されている作品を鑑賞します。今日は雨の後の石ころ道なので、足裏は冷たくて痛くて足指が攣りました。作家さんにお会いした時に「なぜ半足草履を履いて観賞するのですか?」と尋ねて、お返事をお聞きしたかったです。 ![]() 橋本雅也さんの作品は、鹿の骨から造られた百合の花で、木の根の洞穴の左奥からひっそりと、でもドキッとするくらい艶やかに咲いていました。 大滝御神社から500円定額タクシーで武生市街に戻り、日が暮れるまで「昔の街歩き」マップを頼りに散策をしましたが閉店しているお店が多かったです。 ![]() ちひろの生まれた家記念館 ![]() 「蔵の辻」 大正・昭和初期の木造店舗や蔵が活かされた一帯は、かつて北陸と関西を結ぶ物資の中継基地として栄えました。 ![]() 「蔵の辻」 ![]() 「うるしや」としての創業は江戸時代。漆の販売から蕎麦屋に転じ、昭和天皇が訪れた際には「越前そば」の名のきっかけを作ったとされています。 ![]() 漆塗りの大きなテーブルが映える落ち着いた個室で夕食です。 ![]() 金継ぎが美しい茶飲み茶碗 ![]() 名代越前おろしそば(私は田舎風越前おろしそば)、天盛り、出汁巻き、煮っころがし(大野の小芋煮が特別美味しかったです) ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………… 北陸3県を舞台に「感情をゆらす、工芸の旅」をテーマに開催されたGO FOR KOUGEI展をゆっくり観て体感して、越前おろしそばを頂いて満足の一日を過ごしました。 現代の慌ただしい日々を振り返りながら、子どもの頃の懐かしい思い出を再体験してみたくなりました。古くて新しい宝物を見つけて幸せな気持ちになりたいです。 出展作家さん達の今後のご活躍を楽しみにしています。搬出前のお忙しい時に、ご案内してくださってありがとうございました。(三橋登美栄)
10/25 22:35 | 展覧会 |